東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)141号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は、本件補正が原明細書又は原図面の要旨を変更したものであるにかかわらず、この点の判断を誤り、ひいて、誤つた結論を導いたものである旨又は、本件考案と第一引用例及び第二引用例記載のものとを対比するに当たり、両者の構成及び作用効果上の相違点を看過し、ひいて、本件考案をもつて第一引用例及び第二引用例から極めて容易に考案をすることができる程度のものといい得ないとの誤つた判断をした旨主張するけれども、右主張は、次に説示するとおりいずれも理由がないものというべきである。
1 要旨変更の有無について
前記本件考案の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本件考案の実用新案公報)を総合すれば、本件考案は、傾斜角度調節可能な急勾配多孔板(5)に「指向性は有しない単なる通風口(14)を形成」することを構成要件の一つとし、このように選別多孔板(1)の石取出側に取り付けられた急勾配多孔板(5)の通風口(14)は、単なる透孔であつて指向性を有しないが、右多孔板(5)自体を傾斜している構成としたため、指向性のある、すなわち、突起(12)により風を石取出側方向に噴吹する形状に開口された通風口(13)をもつ選別多孔板(1)と異なり、急勾配多孔板(5)上に石と共に一部移動してきた穀物は通風口(14)より噴出する風によつて該多孔板(5)の傾斜のため必然的に穀物取出側方向に戻され、石は該多孔板(5)上に貯留し、後から到達した石に後押しされて上昇排出されるに至り、このようにして急勾配多孔板上で石屑と穀物の選別を行い、石屑と共に一部穀物が排出されないようにする優れた作用効果を奏するものであることが認められる。
原告は、本件考案の構成中、右の「指向性は有しない単なる通風口を形成」する構成は、原明細書又は原図面に開示するところも、示唆するところもない旨主張するから、検討するに、成立に争いのない甲第三号証(本件考案の実用新案登録願書並びに原明細書及び原図面)によれば、原明細書には、実用新案登録請求の範囲の項には、「選別多孔板(1)の石取出側(2)を急勾配面(5)に形成し」との記載があり、また、考案の詳細な説明の項には、本件審決認定のとおりの記載がある(この点は、原告の認めるところである。)ほか、「穀物bは……全体的に浮上する状態となり、……選別多孔板(1)の表面の突起(12)の突上げ力の影響をあまり強く受けないので、第五図のように板面全体に分布して釣合つたのち、石取出側(2)に分布した穀物bは、僅かに石受流樋(4)の方向に移動しようとするが、その部分は急勾配(5)となつているのでそこで停止する。……穀物b中に含まれる石aは、比重が重いため、風車(9)の風では浮上せず、直接突起(12)の突上げ力を受けて石受流樋(4)に向つて上昇し、急勾配面(5)に達して停止し、そこに貯留する。石aの量が次第に増加すると、先の石aは後の石aに押されて急勾配(5)を上昇し、石aのみ石受流樋(4)に取出される」(原明細書第四頁第一三行ないし第五頁第一五行)旨の記載があるところ、突起(12)の機能については、急勾配(5)に達するまでの機能について上記のとおりの記載があるのみで、他に全く記載がないこと、並びに原図面第四図ないし第六図として、実施例又はその要部の断面図が示されているところ、第六図については、考案の詳細な説明の項に、「第六図に示した実施例は、急勾配面(5)の勾配を……軸(11)により調節自在とする。」とあつて、同図は急勾配面(5)がその右に図示された選別多孔板(1)の中央部とは別体の部材であることを明示し、また、第四図ないし第六図には、急勾配面(5)及び選別多孔板(1)の中央部を一定間隔ごとに透孔を有する同一断面形状で表示し(突起(12)の存否は、表示していない。)、第七図には、選別多孔板(1)の一部拡大図として、平坦な板に透孔(13)と一定角度に傾斜した突起(12)の存することを示していることが認められる。
以上認定の事実によれば、原明細書において、選別多孔板(1)は、急勾配面(5)を含むものと解されるが、右選別多孔板の中央部(本件考案にいう選別多孔板(1)に当たる。)及び急勾配面(5)は、石及び穀物の移動に関する機能ないし作用効果を異にし、殊に、石の移動について、選別多孔板(1)の中央部においては突起(12)の突上げ力の作用によるが、急勾配面(5)においては、急勾配面の調節により石が貯留し、後の石に押されて先の石が移動し排出されるものであつて、右両者の機能ないし作用効果の違いは、両者の構造上の差異、すなわち急傾斜面(5)が突起(12)を有しないことに基因するものと認めるを相当とし、したがつて、原図面第七図に選別多孔板(1)に突起(12)が示されているけれども、同図に(1)と表示された部分は選別多孔板の中央部(第六図に(1)と表示された部分)を示すものとみるべきであり、急勾配面(5)には透孔(指向性を有しない単なる通風口)があるのみで突起(12)が存在しないものと認めるべきである。なお、原告は、甲第一〇号証ないし第一五号証を挙示し、本件考案の実用新案登録出願前後の経緯を縷々主張するが、叙上認定を覆すに足りない。そうであるとすれば、原明細書及び原図面には、本件考案の要旨中の前記「指向性は有しない単なる通風口(14)を形成」する構成が開示されているから、本件補正をもつて要旨を変更したものということはできず、したがつて、原告のこの点の主張は、採用することができない。
2 進歩性の有無について
原告自認に係る本件審決認定の第一引用例の記載内容に成立に争いのない甲第五号証(第一引用例)を総合すれば、第一引用例の撰穀機において、穀粒と石屑とを選別する本件考案の急勾配多孔板(5)に相当するものは、噴散風孔を有する底盤(6)(別紙図面(三)の第一図及び第二図)又は整流盤(30)(同第三図)であるところ、底盤(6)及び整流盤(30)はいずれも撰別盤(2)の石取出側端部に取り付けられ、底盤(6)は撰別盤(2)の勾配とほぼ同様の勾配で固定され、整流板(30)は調節可能ではあるが石取出側に傾斜した構成であること、並びに底盤(6)及び整流盤(30)上の穀粒、土砂等の混合流中の穀粒は、底盤(6)及び整流盤(30)の噴散風孔から吹噴する噴風により吹散するが、穀粒を撰別盤(2)に戻す作用はなく、穀粒が撰別盤(2)上に戻るのは底盤(6)及び整流盤(30)が設けられている穀粒飛散分離室(5)の多孔誘導壁(13)に誘導されることによるものであることを認めることができる。右認定したところによれば、本件考案の急勾配多孔板(5)に相当する第一引用例の底盤(6)又は整流盤(30)は、その盤の傾斜方向において本件考案の急勾配多孔板(5)と構成を異にするのみか、作用効果においても、前記1に認定の本件考案の急勾配多孔板の奏する作用効果を奏するものではなく、異なることが明らかであり、したがつて、第一引用例は、本件考案の急勾配多孔板(5)に関する技術的思想を欠くものといわざるを得ない。原告は、本件考案における急勾配多孔板(5)が穀粒を穀物取出側の選別多孔板(1)に戻す作用効果は、第一引用例の底盤(6)の奏する作用効果と同一である趣旨の主張をするが、右主張は叙上認定説示に照らし、理由がないというべきである。
次に、原告自認に係る本件審決認定の第二引用例の記載内容に成立に争いのない甲第六号証(第二引用例)を総合すれば、第二引用例の考案は、石抜口(7)の底面(13)(本件考案の急勾配多孔板(5)に対応する。)を、選粒盤(1)(本件考案の選別多孔板(1)に対応する。)に蝶番(14)により接続し、下方に定着する機壁(15)より調節螺杆(16)を螺入し、その上端により底面(13)の縦方向に沿う遊離端を支持し螺杆(16)を旋回して接続部の蝶番(14)を起点に上下に移動し得るようにし、選粒盤(1)に接続する底面(13)を選粒盤とともに縦方向に斜め上下に揺動しつつ、底面(13)の遊離端を上下に移動調節して底面(13)の傾斜角度を調節し、底面から小石のみを排出し、玄米を内側に押し下げ、排出しないようにした構成のものであつて、底面(13)には選粒盤(1)に設けられた通風孔(3)と同様の孔が設けられているが、その下方に盲板である機壁(15)が定着し、底面(13)は機壁(15)にさえぎられているため、選別のための風の作用を受けないものであることを認めることができる。右認定の事実によれば、第二引用例の底面(13)が、本件考案の急勾配多孔板(5)が通風口を吹き抜ける風と傾斜角度を共に利用する構成を採り、前認定の作用効果を奏し得るようにした技術的思想を欠くことは明らかである。原告は、第二引用例の底面(13)が接続部の蝶番(14)を起点に上下に移動調節可能で傾斜することを理由に本件考案の急勾配多孔板(5)に相当し、作用効果において一部同じである旨主張するが、叙上認定説示のとおり、両者は技術的思想を異にするものであつて、右主張は採用の限りでない。
叙上説示のとおり、第一引用例及び第二引用例が本件考案の前記の技術的思想を欠く以上は、本件考案をもつて第一引用例及び第二引用例から極めて容易に考案をすることができたものということはできないから、本件審決のこの点の認定判断は正当である。
(結語)
四 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註その一〕 本件考案の要旨は左のとおりである。
相対峙する一方側を石取出側(2)とし、その他方側を穀物取出側(3)とし、穀物取出側(3)より石取出側(2)に向つて風を噴出する通風口(13)を形成した揺動式選別多孔板(1)において、その前記石取出側(2)には指向性は有しない単なる通風口(14)を形成した傾斜角度調節可能の急勾配多孔板(5)を取付け、該多孔板(5)の外端部に石流出口を形成すると共に、前記多孔板(1)の下部に装着された風車(9)の風胴(6)は、前記多孔板(1)および前記多孔板(5)の双方に風を与えるごとく構成してなる石抜装置。(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面 (一)
<省略>